「節税」と「租税回避」の違いを十分に理解しないまま、専門家から勧められた節税策を採用していませんか。
税負担を軽減することは、企業経営において重要な取り組みの一つです。しかし、一見すると法律に適合している手法でも、税務上の問題が生じたり、税制改正によって将来の利用が制限されたりする場合があります。
さらに、過度な節税スキームへの対応は、その利用者だけの問題ではありません。税制や財産評価制度の見直しを通じて、通常の事業活動や中小企業の事業承継にも影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、節税と租税回避の違いを整理したうえで、2026年10月20日に政府税制調査会の専門家会合で示された租税回避の実態、米国のタックスシェルター規制、会計検査院による非上場株式評価への指摘を取り上げます。
また、経営理論の一つであるエージェンシー理論を活用し、経営者が専門家からの節税提案をどのように評価し、判断すべきかを考えていきます。
こんな経営者の方におすすめです
- 自社の節税策に税務上の問題がないか確認したい
- 税制改正や規制の動向が事業承継に与える影響を知りたい
- 税理士や金融機関からの節税提案を適切に判断したい
この記事から得られるヒント
- 節税と租税回避の違い、税務上のリスクを理解できる
- 政府の規制動向と非上場株式評価の見直しが経営に及ぼす影響を把握できる
- 専門家の提案を法的・経済的・経営的な視点から評価する方法が分かる
節税と租税回避の違いを正しく理解していますか
節税と租税回避は、いずれも税負担の軽減に関係する行為ですが、その性質は異なります。
経営者が理解しておきたいのは、税負担を減らすこと自体が問題なのではなく、その手法がどのような制度や取引に基づいているかという点です。
節税は法律に認められた税負担の軽減
節税とは、税法に定められた制度を適切に活用し、税負担を軽減することです。
例えば、必要な設備投資について減価償却を行うことや、要件を満たした税額控除制度を利用することなどが挙げられます。
これらは法律が予定している制度の活用であり、適用要件を満たしていれば正当な税負担の軽減です。
ただし、節税のために不要な設備投資を行えば、税金が減っても手元資金が減少する場合があります。
税務上認められることと、経営上合理的であることは、必ずしも同じではありません。
租税回避は制度の仕組みを利用した税負担の軽減
租税回避とは、一般に、通常とは異なる取引や法律関係を利用して、税法が本来予定していない税負担の軽減を図る行為を指します。
例えば、複数の法人を介在させたり、取引の形式を組み替えたりすることで、本来適用される課税関係とは異なる結果を生み出すスキームがあります。
ここで重要なのは、租税回避は、架空取引や所得隠しによる脱税とは異なるという点です。
実際に取引が行われ、形式的には現行法に適合している場合もあります。そのため、租税回避と評価されたからといって、直ちに違法となるわけではありません。
また、日本にはあらゆる租税回避行為を一律に否認する包括的な一般否認規定はありません。課税処分には、個別の否認規定や課税要件に関する法令解釈など、具体的な法的根拠が必要です。
一方、法令上の要件を満たさない取引などが否認されれば、追加の税負担が生じる可能性があります。隠蔽や仮装などの要件を満たす場合には、重加算税が課されることもあります。
節税と租税回避の境界は必ずしも明確ではない
実務では、ある取引が正当な節税なのか、租税回避に該当するのかについて判断が分かれる場合があります。
税務当局と納税者の見解が一致せず、不服申立てや訴訟に発展することもあります。
経営者として重要なのは、税金が減るという結果だけで判断しないことです。
**「なぜその取引を行うのか」「税負担の軽減以外にどのような事業上の目的があるのか」「税法上の根拠は何か」**を説明できるかどうかが、節税提案を評価するうえで重要な視点となります。
政府税制調査会が示した租税回避の実態
2026年10月20日、政府税制調査会の「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」において、財務省・国税庁が「租税回避等への対応」と題する資料を提出しました。
この資料では、国内外で租税回避スキームが複雑化している状況や、税務当局が把握した具体的な事例、今後の対応に向けた課題が示されています。
注目したいのは、租税回避スキームを利用する納税者だけでなく、それを開発・販売する専門家や事業者の存在が取り上げられていることです。
令和8年度税制改正にみる租税回避への対応
具体例の一つが、同族会社に関係する社債利子への課税です。
通常、一定の社債利子は分離課税の対象となります。一方、同族会社の役員等が、その会社から受け取る一定の社債利子については、総合課税の対象とする措置が設けられています。
しかし、第三者の法人を介在させたり、複数の同族会社が相互に社債を発行したりすることで、総合課税を回避するスキームが確認されました。
そこで、令和8年度税制改正では、一定の要件の下で、同族会社以外の法人から受け取る社債利子であっても、実質的にその同族会社から受け取るものと認められる場合には総合課税の対象とする措置が盛り込まれました。
これは、制度上の違いを利用した税負担の軽減に対し、個別の法改正によって対応する例です。
もっとも、法改正による新たな規制が、過去の適法な取引に当然に遡って適用されるわけではありません。改正法の適用時期と、従前の法令に基づく課税判断は区別する必要があります。
税理士法人や金融機関によるスキームの提供
政府資料では、租税回避スキームを開発・販売する事業者を「プロモーター」として取り上げています。
具体的には、次のような事例が示されています。
- 税理士法人が、グループ法人税制等を利用して経済実態を伴わない多額の税務上の損失を作り出すスキームを販売した事例
- 税理士が代表を務める法人が、総合課税と分離課税の税率差を利用したスキームを販売した事例
- 金融機関が、顧客の経営する法人について、組織再編や資産取得等を通じて相続税評価額を圧縮する方法を、具体的な金額を示して提案し、アドバイザリー報酬等を得ていた事例
これらは国税庁が把握したスキームの事例であり、個々の取引すべてについて違法性や税務上の否認が確定したことを意味するものではありません。
ただし、経営者が考えるべき問題を示しています。
専門家から提示された節税策が、企業の経営上の利益を目的としているのか、それともスキームの販売や報酬獲得が重視された提案なのかという視点です。
租税回避スキームへの対応が難しい理由
政府資料では、租税回避スキームへの対応における課題も整理されています。
例えば、税務当局が一つのスキームに対応しても、新たな手法が開発される場合があります。また、スキームが多数の納税者に販売される速度に対して、税務調査や制度改正には時間を要します。
このため、税務当局は個別の申告内容を調査するだけでなく、スキームの開発・販売に関する情報を早期に把握する仕組みも重視しています。
過度な節税策への対応は、個々の納税者に対する課税処分にとどまらず、税制そのものの見直しにつながる可能性があるのです。
米国のタックスシェルター規制と専門家の責任
租税回避スキームへの対応を考えるうえで参考になるのが、米国のタックスシェルター規制です。
タックスシェルターとは、一般に税負担の軽減を目的とする仕組みを指しますが、米国では一定の報告対象取引について、納税者だけでなく、その組成や販売等に関与する専門家にも情報開示義務が設けられています。
米国ではスキーム提供者にも開示義務がある
米国のIRS(内国歳入庁)は、一定の報告対象取引について情報開示を求めています。
対象となる納税者にはForm 8886による申告が求められる場合があり、一定の要件を満たす重要な助言者(Material Advisor)にもForm 8918による開示義務があります。
また、一定の助言者には、取引に関係する顧客リストの保存義務もあります。
これらはすべての節税策に適用される制度ではなく、法令上定められた報告対象取引や要件に該当する場合の仕組みです。
注目すべきなのは、租税回避スキームを利用する納税者だけでなく、それを組成・販売する側にも一定の責任を求めていることです。
日本でも、OECDが勧告する義務的開示制度(MDR)などを参考に、租税回避スキームを把握する仕組みの検討が課題として示されています。
ただし、2026年11月時点で、日本に米国と同様の包括的な開示制度の導入が決定したわけではありません。
エージェンシー理論から専門家との関係を考える
ここで参考になる経営理論が、エージェンシー理論です。
エージェンシー理論は、仕事を依頼する側(プリンシパル)と、依頼を受けて行動する側(エージェント)の間に生じる情報格差や利害の不一致を分析する理論です。
税務の場面では、経営者が依頼する側、税理士などの専門家が依頼を受ける側に当たります。
経営者は税務の専門知識を十分に持っていない場合があり、専門家から提案された手法について、その妥当性や将来のリスクを独自に判断することが難しいこともあります。
また、提案に伴う報酬が節税額や取引規模に連動する場合、専門家と経営者の利害が必ずしも一致しない可能性もあります。
もちろん、成功報酬型の契約自体が不適切というわけではありません。しかし、報酬体系によって提案内容に偏りが生じないかを確認することは重要です。
経営者に求められるのは、専門家の知識を疑うことではありません。
専門家の助言を尊重しながら、提案の目的、税務上の根拠、費用、リスク、報酬体系を確認し、自社の経営判断につなげることです。
複雑な案件では、必要に応じて別の専門家の意見を求めることも、情報格差や利益相反の問題を軽減する方法になります。
非上場株式評価の見直しが事業承継に与える影響
過度な節税スキームが税制全体に及ぼす影響を考えるうえで、中小企業にとって身近な例が、非上場株式の相続税評価です。
非上場株式の評価額は、相続税や贈与税の負担に直接関係するため、事業承継計画において重要な要素となります。
会計検査院が指摘した株式評価額の格差
非上場株式の相続税評価では、株主の区分や会社規模などに応じ、類似業種比準方式、純資産価額方式、両者の併用方式などが用いられます。
類似業種比準方式は、類似する上場会社の株価や配当、利益、純資産等を参考に評価する方法です。
一方、純資産価額方式は、会社が保有する資産・負債を相続税評価の考え方に基づいて評価し、株式価額を算定する方法です。
会計検査院は、令和5年度決算検査報告において、これらの評価方式の間に大きな格差が生じていることを指摘しました。
国税庁が2026年4月の有識者会議で示した資料によれば、会計検査院の検査対象において、**類似業種比準価額の中央値は、純資産価額の中央値の27.2%**となっていました。
また、純資産価額に対する申告評価額の割合の中央値は、大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍となっており、会社規模が大きい区分ほど相対的に低く評価される傾向が示されています。
ただし、これらは検査対象の集計結果であり、すべての企業に同じ割合が当てはまるわけではありません。
また、評価方式による格差が存在すること自体が、直ちに租税回避を意味するものでもありません。
問題となるのは、会社規模や評価方法の違いによって生じる税負担の公平性と、その仕組みを意図的に利用した過度な株価圧縮への対応です。
評価制度の見直しは通常の事業承継にも影響する
会計検査院の指摘などを踏まえ、国税庁は2026年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催しています。
2026年9月16日には第6回会議が開催され、非上場株式の評価制度のあり方について議論が進められています。
ここで注意したいのは、評価制度の見直しが行われた場合、その影響は過度な節税スキームを利用する企業だけに限られない可能性があることです。
例えば、評価方式の変更によって株式評価額が上昇すれば、通常の相続や贈与において、税負担や必要な納税資金が増加する可能性があります。
また、法人版事業承継税制の納税猶予制度を利用する場合にも、評価額の変更は猶予対象となる税額の計算などに影響する可能性があります。
もっとも、株式評価制度と事業承継税制は別の制度であり、評価方法の見直しが直ちに事業承継税制自体の変更を意味するわけではありません。
現時点で、具体的な評価方法の見直しがすべて決定しているわけでもないため、今後の検討結果を確認する必要があります。
中小企業経営者にとっては、現在の株式評価額だけを前提とせず、将来の制度変更も見据えながら事業承継計画を検討することが重要になります。
経営者が節税提案を判断する3つの基準
ここまで、国内外の租税回避規制と非上場株式評価制度の動向を見てきました。
では、中小企業経営者は、専門家から節税提案を受けた際に、何を確認すればよいのでしょうか。
重要なのは、法的な妥当性、経済的な合理性、長期的な経営への影響という3つの視点です。
1. 税法上の根拠と適用要件が明確か
最初に確認したいのは、提案された節税策の税法上の根拠です。
どの法律や制度を利用するのか、どのような適用要件があるのか、過去の判例や裁決で問題となった類似事例がないかを確認します。
特に、複数の法人を介在させたり、通常とは異なる取引形式を用いたりする提案では、税務上の取扱いを慎重に検討する必要があります。
専門家に対しては、節税額の試算だけでなく、適用する税法上の根拠と、想定される否認リスクを説明してもらうことが重要です。
2. 税負担の軽減以外に経済的合理性があるか
次に、取引そのものに経済的な合理性があるかを確認します。
例えば、節税効果があるとして提案された不動産投資であっても、収益性が低く、借入負担が過大であれば、企業の財務状況を悪化させる可能性があります。
生命保険や金融商品を利用する場合も、税負担の軽減だけでなく、保障の必要性、解約時の損益、資金の拘束期間などを検討することが必要です。
また、税務上の合理性と経営上の合理性は必ずしも一致しません。
税金が減ることよりも、取引全体でどれだけの経済的利益が得られるか、資金繰りや将来の事業運営に無理が生じないかを優先して判断するべきでしょう。
なお、経済的合理性が乏しいという理由だけで、直ちに税務上否認できるわけではありません。税務上の判断と経営上の判断は区別して考える必要があります。
3. 長期的な経営と社会的信用を損なわないか
最後に確認したいのは、節税策が長期的な企業経営に与える影響です。
短期的な税負担を軽減できても、複雑な取引関係が残ったり、将来の税制改正によって想定した効果が得られなくなったりする場合があります。
また、税務上の問題が発生すれば、追加の納税負担だけでなく、取引先や金融機関との関係に影響する可能性もあります。
そこで、専門家からの提案については、次の事項を確認しておくとよいでしょう。
- 節税効果は一時的なものか、継続的なものか
- 税制改正や税務調査によって問題が生じた場合、どの程度の負担が発生するか
- 導入費用、専門家報酬、維持費用を含めて経済的な利益があるか
- 提案者の報酬体系や利害関係は明確か
- 事業承継や資金繰り、将来の経営方針と矛盾しないか
中小企業では、専門家による複雑な検証体制を常時整えることは難しいかもしれません。
しかし、重要な節税提案について、目的、根拠、費用、想定リスクを書面で整理してもらうだけでも、判断の質を高めることができます。
また、継続して利用する節税策については、決算や事業承継計画の見直しに合わせて、現在の税制に適合しているか確認することも有効です。
節税だけを目的にしない経営判断へ
節税は、企業の資金を守り、経営の選択肢を広げるための重要な手段です。しかし、税負担の軽減だけを目的として、取引の合理性や将来のリスクを十分に検討しないことは、必ずしも企業の利益につながりません。
政府税制調査会が示した租税回避スキームの実態、米国のタックスシェルター規制、会計検査院による非上場株式評価への指摘から読み取れるのは、税負担の公平性を損なうようなスキームへの対応が、個別の課税処分だけでなく制度の見直しにもつながり得るということです。
そして、その制度変更は、通常の事業活動や事業承継を進める中小企業にも影響する可能性があります。
専門家との関係においても、提案を無条件に受け入れるのではなく、情報格差や利害関係を理解しながら、経営者自身が判断できる状態をつくることが大切です。
税金をいくら減らせるかではなく、その選択が企業の将来にとって本当に合理的なのか。
節税を単独の目的とするのではなく、資金繰り、財務の健全性、事業承継、社会的信用を含めた経営判断の一部として位置付けることが、長期的な企業価値を守ることにつながるのではないでしょうか。
今回の神様と記事のテーマ
菊理媛神(ククリヒメノカミ)― 目先の利益にとらわれず、正しい判断へ
菊理媛神は、日本書紀に登場し、伊邪那岐命と伊邪那美命の間を取り持ったと伝わる女神です。
今回はその「調和・仲介」という性格を、節税効果と税務リスク、専門家の提案と経営者自身の判断を調和させることに重ねます。
参考資料・出典
- 内閣府・政府税制調査会、財務省・国税庁「租税回避等への対応」(2026年10月20日)
https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/8digital-noukan5kai3.pdf - 財務省「令和8年度税制改正の大綱」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_01.html - 米国内国歳入庁(IRS)「Abusive tax shelters and transactions」
https://www.irs.gov/businesses/corporations/abusive-tax-shelters-and-transactions - 会計検査院「令和5年度決算検査報告・相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」
https://report.jbaudit.go.jp/org/r05/2023-r05-0654-0.htm - 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」(2026年4月~)
https://www.nta.go.jp/about/council/kenkyu.htm - Jensen, M. C. & Meckling, W. H. (1976), Theory of the Firm: Managerial Behavior, Agency Costs and Ownership Structure, Journal of Financial Economics, 3(4), 305–360.
- 入山章栄『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社、2019年(エージェンシー理論の経営実務への応用に関する参考文献)。
